透けるような花弁が宙に舞う。
 どこかで見慣れた花のようで、初めてまみえる名も知れぬ花のようで。
 かさついた肌のような樹皮を幾重にもまとい、まるで水気の抜けた老婆のような。それでいて内から張りを返す少女のような。ところどころに負った苔の緑が、手弱女を思わせて。
 今が盛りと夜空に朧と浮かぶ古木は、風雅にして絢爛。
 真白に一滴の紅、満開。

 その根元で、似合わぬバカ騒ぎ。






「脱げ脱げブレダーーー!!」

「踊れ、ファルマン!!」

 即興ガラ声BGMにのって「ちょっとだけよ〜ん♪」と悪ノリする声がすれば、「ドジョウすくいとは、安来節に砂鉄採取の所作をとりこみ、ひょっとこ顔の男性が………ちなみにどどじょーすくいせっとは9800センズなり〜」解説するも無視される声もする。
 所詮は酒の席。自分もまわりも酔っ払い。あまりに低い程度を出さなければ許されもする。


「やれやれ、誰も地べたを見てばかりで、上を見ようとしないとは。名月に霞か雲か…というところなのに、勿体ない」

「どんなときでも上を見ることを忘れないあたり、アンタらしいっちゃ、アンタらしいけどな。ひたすら酒を呷ってたら同罪だろ」

 カショカショと音を立てながら、楽しげに踊る弟。
 月明かりを跳ね返す色は鋼。ただ飲んでもいない酒に酔う程度には、今宵の宴席は気がおけなく、手足も心も舞うばかり。

「……ありがとな、誘ってくれて」

「珍しいな。花霞が雨雲に変わるかもしれん」

「たまにはオレだってありがたがるさ」

 宴席を設けると言われたのは、数時間前の昼下がり。
 お祭り好きの部下たちが、花の見ごろに合わせてここ数日必死に仕事を片づけ、万難を排したうえでの宴席なので、誘われた上司で資金源である自分も、もちろん彼らが可愛がるところの君たちも、どんな用事があろうと出席せねばならない。
 そう言われて弟共々連行されて、こうしてやってきた花見。
 そこは人目につきにくい、品行方正なはずの軍人さんにも、耳目を集める自分たちにも好都合な場所。
 それが我らが上司の自宅の庭だったのは驚いたけれど。意外にも整えられた庭に驚けば、このために庭師を入れたのだとこっそり教えてくれた。
 あとは酒と酒肴を持ち込んでのバカ騒ぎ。
 酒精を帯びていないのは自分と弟だけ。
 けれど十分に酔っている。
 この空気に。
 ひとときの安らぎに。
 受け入れてくれる彼らに。
 夢のようで、夢でない。
 上り調子の手拍子のなか、踊る弟の肩にはりついた花弁が、明日の朝、もう一度安らぎをくれるだろう。ひとつふたつ頂戴して、手帳に挟むのもいいかもしれない。






「明日の夜もまだ見ごろだよ」

 硝子の杯片手に口説かれて、その片手に本があってもいいのなら、と返した。









                 「花衣」 ひい様作


            































いつもなら、GWあけでオッケーのお花見なのですが・・・今年の春は早かったのでした。桜も・・・2週間は早かったような・・・
原稿を描いているうちに散ってしまうのではないかと心配しましたが、何とか八重桜は見に行く事が出来ました。満開のピンクの花の固まりが美しくて・・・桜並木でしばらくボーットしていましたよ。