チョコレート』




「ヘェ、うまそうなモノ食ってるじゃないか」

 エドの部屋を覗きながら、そう言った。
 同じ班のチャリー・ガラルだ。
 灰色の瞳のこの男は、とかく甘いものには目がない。
 廊下を歩いていて甘い匂いに惹かれて来たのか、エド達の部屋に寄る気になったようだ。

「チャーリーか、食べるか?」
「いいのかっ?って……これって…セントラルの最高級菓子店バイラルのじゃないかっ」

 深紅のハート型の箱とそれを包んでいた白い包装紙、茶色のリボンにはチャーリーの言った店の名前が書かれていた。

「そーなんだ?」

 感動している風ぶもなく、今1つ口に放り込む。
 1つ1つ風味の違うチョコレートだった。

「そーだよ、これ1つぶで500センズはするんだぞ?」

 いいながら、エドの気が変わらない内にと1つ口に入れる。

「へぇ〜すげーんだな。このチョコ」
「へぇ、じゃないよ。人ごとじゃあるまいし……最高級の白トリュフのエキス入りだぞ!本命用のチョコだぜ、凄いじゃないか。いったい何処の令嬢から頂いたんだ?」
「はぁ?」

 本命って…
 ロイからもらったものではあったが、何と言っていのか。セントラルの有名店のだとは知っていた。
 先日、中央司令部に戻っていた彼が、エドのために買い求めてきた物だった。

『パテシェ・サン=マリクの最新作だぞ』

 晴れやかな顔をして手渡してくれた。
 もちろん、飛びついて受け取った。
 ロイのくれるお菓子は、どれもこれも恐ろしくうまい。

「食いたいのなら、まだまだあるぜ?何処のだかわからないけど」
「え?」

 エドの指さした場所には紙袋一杯に詰め込まれた色とりどりの箱がびっちりと詰められていた。

「これ全部エドがもらったのか…?」
「ああ」

 あっさり言い切りはしたが、それを自慢している風でもない。実際ロイのもらう数に比べたら、微々たるモノだという自覚があるからだった。

「すっげぇなぁ〜でも、俺が食べちゃっていいのか?」
「いいよ。ただし、俺からもらったって女性達にはないしょだよ」
「ああ、もちろん」

 袋の中のチョコレート達は手作りのものもあったが、ほとんどが近くの街の菓子
店のものだった。
 ただに文句は言わないので、チャーリーは黙々とご相伴にあずかった。もちろんエドが食べているチョコが一番美味しかった事は言うまでもないが、チョコを食べるのに夢中になってしまい、本命チョコの主の名を聞きそびれてしまった。

「なぁ、エド」
「なんだ?」
「このチョコってさー、全部女からか?」
「聞くなっ!」

 そう言うからには、エドのファンの下級生からのも含まれているのだろう。
 それがどれかとは、聞きたくないのだけれど。







   エド士官学校・バレンタイン編
                   20007.02.15


                バレンタインにアップするつもりが・・・
                寝こけてしまいました…・・・
                やっぱ除雪の疲れが溜まっていたようです。