「……………あんたら何者なんだ?」
もう一度ケリーが尋ねた。
アレンの凄まじい戦いは見ていたが、エドも仲間だとは思わなかったのだ。
彼は、巻き込まれただけの…ただの生徒だと思っていたのだ。
だけど、この様子はどうも、力一杯化け物と戦ってましたという様子で。しかも、それに慣れている様子なのだ。
「エド………も、軍人だったのか?」
半端あきれてケリーが言った。
まだ若いはずなのに……軍人だとは思わなかったと…
「こそこそと、俺たちを探っていた…のか」
堂々としているのも、どうかと思うけど……
「探ってなどいない」
だが、騙していたのは事実だった。
エドの名誉のため、何と言おうかとは思ったが、
替わりにエドが口を開いた。
「オレは軍人じゃねーよっ!」
「だったら何で…?」
「俺は別件つーか、バーンスタイン教官の作った『賢者の石』に用があっただけだ。…残念ながら、もうナイみたいだけどな」
いつもの賢者の石を追いかけていて、この学校に行きあたっただけなのだ。
廊下でばったりロイにあった時は、心臓が口から飛び出すかと思ったのだけれど。
「そっちは無事片づいたようだな。怪我はないか?」
アレンが声をかけた。
「見てわかるだろっ!」
「わかるから聞いているのだよ。ボロボロじゃないか」
せっかくの綺麗な金髪もぐしゃぐしゃで…・と、嘆いてみせる。
「わるかたなッ、ボロで!小っさくて目に入らないゴミのような存在でッ!」
嫌、そこまでは誰も行ってないぞ?
「死ぬほどの怪我は……してないようだな?」
ディルの作った出来損ないのゴーレム団体を相手にしいたはずだった。
いつもの彼なら心配などしない。
だけど、体力の落ちている今は別だ。
結構な数と量だったので、一応訪ねてみたのだ。
「当たり前だ。誰に言っている!」
自信に満ちた金の瞳が輝く。
生命あふれる表情だ。
「失礼!」
一瞬だけ、アレンの表情が軟らかく感じ慣れた。
「セシルが…ホムンクルス…だと……わかってこの学校に来たのか?」
ミュラーが尋ねた。
たかが学生寮の幽霊騒動だったはずなのに…上層部はそれが錬金術だとわかっていたのかと。
「いや、ここに居たのはただの偶然だ」
実際別件というか、ロイにしても、ほぼ私用でここに来たのだ。
「俺はバーンスタイン教授に会いに来ただけだし…・・」
エドはそう言った。
そしてロイも
「私は、優秀な科学者のタマゴを勧誘に」
始まりは単なる偶然。
国家クラスの錬金術師が何人も居たから、事が大きくなったのかも知れなかった。
「相手が合成獣なのか?作りたかったのが石なのか人体なのかも不明だった。軍情報部内に錬金術師はいないからな」
知っていたのなら、間に合ったのかもしれない。
何人かは、助けられたかもしれない…
目の前の友人を助けたい、
皆、願っていた事は同じだ。
だけど、人1人が出来る事などほんのわずかで小さなものにすぎない。それが国家錬金術師であったとしても・…
今回の事件は、相手の正体が大がかりな錬金術によるものかもしれない、その程度しか上層部は理解していなかったのだ。
傍観を決め込んでいたわけではないにしろ、判断の遅れが被害を拡大した事は言うまでもない。それでも、ここに2人が居たからこそ、守れたものもあるのだ。
軍の上層部も関与しているらしい、とか。
見え隠れする国家クラスの錬金術師の存在とか。
確実なのは、士官学校が現場だという事だけ。
わかっている事は、本当にほんの僅かだったのだ。
それが誰かはわからなかった。
アレンはゆっくりとズボンのポケットから懐中時計を取り出して時間を確認した。
慣れた仕草のそれは、授業で見慣れたものだったが。
銀色の鈍い光を放つそれは、いつも使っていたそれではなく、六芒星が描かれた特別のものだった。
大総統府直轄を示すそれは…彼らの身分証明書でもあった。
「こ、国家錬金術師かっ…」
「こ、国家錬金術師かっ…」
「本件は大総統府の直轄事件だ。口外する事はならない。この事は忘れるように。事件などなかったのだ。いいな」
そこに、今までの人なつっこい新米講師のイメージはなかった。命令する事に慣れた者の顔をして、彼はそう言いポケットに時計をしまった。
「うやむやにする気かッ!」
軍は面子のためなら、関係者全員の口を簡単に塞ぐ事だろう。
「これ以上の犠牲を出さないためだ………」
アレンと名乗っていた男が言った。
それは本当だった。
「犯人は…」
「犯人などいない。居てはならないのだ。だからこそ私が燃やし尽くしたんだ……」
彼が処理した事で、事件は国家機密扱いとなる。
軍とて、汚点は隠しておきたかったのだ。
元、国家錬金術師の犯罪という事でもあり、事件はけして表沙汰になる事はないだろう。そればかりか、事件があった事すら抹消されるはずだ。
「あなたは……今も軍人なんだ」
だとすると、ただの国家錬金術師などではない。
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