翌日、朝の食堂でコッペパンとミルク、それにジャムだけの朝食をとりながらあたりさわりのない情報交換をする。
ミルクが苦手なエドのために、ロイは自分のコーヒーを半分入れて味を変えてやっていた。

「これなら飲める」
「私がいない時は、どうしてるんだ?」

まさか、ミルクを別なものに再構築・・・
いやいや、よけいな事は考えちゃいかん。

「飲んでるわけナイだろ…」

ため息をつくしかない。

「だから大きくなれないんだよ」
「だ・か・ら、誰がミジンコだって?」

いつものコミュニケーションをとる。


「何見てんの?」

さては…などとエドに言われるとアセってしまう。
この恋人は結構短気なのだ。怒らせては捜査に支障がでるやもしれない。

「ああ、ちょっとね」
「ちょっとって何だよ、先生もマレインを変な目で見てるのですかっ?」

エドの一つ隣にいたミュラーに怒られてしまった。
最近2人でいるのをよく見かける。

「私の心は唯1人にだけ捧げている。ブレリオ候補生。物騒な事は言わ

ないでほしいな」
特に、その恋人の目の前で誤解を招く言動は困るのだ。

「物騒…・ですか?」
「私はね、マレイン・ドレルの健康状態について医療官から相談を受けているんだよ」
「健康?」
「顔色は悪いし、食事も身体にあっていないようだ。どこかで療養させるにしても本人が承知しない。何か体質の改善策があればと思いのだが……」
「はぁ…?何だよそれ。そんな事も仕事のうちなのかよ?」

あきれてエドが聞いた。

「うちなんだ…」

ため息をつきながら、ロイが言った。
一応は教員側の人間だ。人手不足の折、生徒の健康管理も仕事といえば仕事なはずだ。
ミュラーの前で詳しい話も出来ないので、今の所はその程度しか話で了解してもらうほかはない。

「療養って、そんな話聞いてない」

マレインはそんな事ひとことだって言ってなかった。とミュラーがボヤく。

「ああ、ここに残りたいと本人が希望してる。軍人になりたいというのはわかるが、あの体力ではな…その前に身体を壊してしまう」

「ドレル…そんなに悪いの?」

とエド。
一般の生活には支障はないのだ。

「ここが士官学校じゃなければだがね。退学しても行く所はないというし……ミュラー、君は同郷なのだろう?親類とかはいないのかね?」
「彼の親類は…居ないのも同じです。俺、マレインに話します。療養所の件考えなおせって」
「そうしてくれたまえ」
食事もそこそこに、食堂から出て行きそうだったミュラーに、
「待ちたまえ!」
「まだ何か?」
「君の顔色もほめたものじゃない。ちゃんと食事はするものだ。下級生ばかり心配してないで、自分の事も考えたまえ」
「…………………」

ロイの言葉に、きょとんとした顔をする。今まで、そんな事を言う教師はいなかったに違いない。

「は………気をつけます」

そう言って、何とかプレートの上の食材を飲み込むと、あわただしく席をたった。
ミュラーが走りさるのを見届けてから、

「本気で健康管理しているの?」

呆れたという声音だったが、うれしそうな表情だ。
真面目に教師をしているとは思ってなかったので、そんな事を言ったのだ。似合っていないとは思わない。意外に、いい教師になれると思う。エドの心に火をつけ、もう一度生きる事を思い出させたあの日のように。
「心外だなぁ、本気とは何だ?給料分の仕事はするぞ」
それが講師のモノなのか、大佐のなのかは不明だ。
前者だとすると、多分に手を抜きまくっているに違いない。

「だったらさぁ…・・リザさん達の健康も考えてやれよ?」
「う・……」

一瞬詰まった。

「彼らはみんな大人だ。自分で管理くらいできるだろう」
「んなコト言ったって、自己管理したくたって、出来ねー状態もあるんじゃねーの?」
そうエドが言うと、ムッと不機嫌そうになった。ここで機嫌をそこるては何も聞き出せないので、
「で、本当の所は?教えろよ」
話題をかえ、エドが聞いた。

「・・・・馬鹿教官の実験結果みたいなんだ」
「実験結果って・・・何が実験・・・?それに馬鹿ってのは……」
もしかして、バーンスタイン教官?

「ミュラーの恋人が」

恋人ってダレよ、と一瞬考えてから

「こっ・恋人だったのかっ?」
そう、叫んでいた。
「しーーっ!」
声がでかい。
百面相でもしているかのようにコロコロと表情が変わる。

「うん、たぶん」

自信はなかったのだろう。

「妙な薬、はやってるだろ?」
エドの耳元で、囁くような声でそう言った。

「回覧、見たの?」
学生達の元には回覧が回っているらしい・……。

「これでも一応教師だ。回覧板は回ってこないよ」
「じゃあ何で・・・?」
「この頃ボンヤリしてる生徒が多くてね。阿片とかの中毒状態に似ているだろ?」

流通経路を調べていくうちに、マレインまで行きついたらしい。
ロイが見ていた理由がわかって、少しホッとしているエドがいた。
ついでに浮気などしていないぞ、とロイの瞳が語っている。

「違和感なくスゴイけど…アレってさ……一見、ただの人間にしか見えない」
人造物とわかったとたん、アレ扱いである。

「たぶん、死体じゃなく生きた状態で造ったんだろう……」
「生かそうと思って頑張った結果なんじゃねーの?」
「だったらいーんだがな」

「バーンスタイン教官って生きてるの?相談って嘘だろ。実験手伝えとか言われたんじゃ…」
さすがというべきか、スルドイ突っ込みだった。

「教官じゃなくてその後継者じゃないかと……」
「やっぱ接触があったんだなッ」

ロイは腕組みをし、難しい顔をしていた。

「ああ、でも…」 
「一体成功しているから・…じゃあ、石はもうナイかなぁ?」
「帰るかね?」
「いや、まだ読み終わってないから……それより実験、手伝う気かよ?」
「禁忌なんだが……」
常識的な大人としては、違法・・・という事で悩んでいるらしい。
「だからーーーーヤル気かって聞いてんだけど…」

「うーーん、どうしたらいいと思うかね?」

そんな事で悩むな。

錬金術師としての好奇心はウズくんだろうけどよ。

「俺に聞くなって!」




















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          ちょこっと加筆しました。何かいじるほどに増えてます。
            ごめんなさいっ・・・(T_T)   2007.03.07
 5.14加筆