第12章 屍食鬼
『まずいッ!』
エドの姿が見えなくなって丸3日が経過していた。
運悪くロイはセントラルに帰っていて、戻って来た時には、エドの姿はなかったのだ。
もっとも、ここにエドが居なければホークアイ中尉は誰か部下の1人でも潜り込ませる事を画策したのかもしれなかった。
しかし慢性的な人手不足で、増援も難しかったのだ。
それに、こと錬金術がらみで、しかも2人も国家錬金術師がいるのだ。何とかなると思われてもしかたがない。
ロイにしたって、何とか出来ると思っていたのだ。
何とかするつもりだったのだ。
なのに、何でこう無力なのか………
だいたい、援軍を待っている余裕はすでにないのだ。
今までの間隔からいって、すぐに殺害される事はないとは思ったのだが、だからと言ってのんびりかまえてはいられなかった。
エドが、狙われているかもしれない事はわかっていたのに。
どうして側にいなかったのか。
腹がたってしょうがない!
「何をしているの?」
「ケリーか」
アレンの後を付けてきたらしい。
「迷子とは言わせないよ」
以前、迷子のふりをして学内を調査していた事がバレたらしい。
アレンは、点在する建物の地下や人気のない場所ばかり、確実な方法で探索していた。
疑われても仕方がなかった。
「エドを捜している」
そう言ったアレンの姿は、明らかに焦燥していて、本気で心配している事が傍目にもよくわかった。
エドがアレンにとって、ただの生徒じゃない事は知っているつもりだったがこれほど思われていれば幸せだと思った。
「あのさ・・・葬式で実家に帰っているって聞いたけど?違ったの?」
少なくとも、同室のコリンはケリーにそう言った。
エドと同室の仲間達には、彼の身内に不幸があって、故郷に呼び戻されている、という事にしていたのだ。
「エドに、葬式をするような家族は居ない。」
それはある意味事実だった。
「実家ってのは、嘘なのか?」
「そういう事にしておかないと、エドの友人達にも被害が及ぶかもしれないだろう?」
今回の事件に、人のいい彼らまで巻き込んでしまうのは嫌だった。
かれらはまだ子どもなのだ。
卒業前に巻き込んでいいはずがない。
「巻き込んじゃマズイほどの事件だと?」
「ああ・・・誰も犠牲にしないと・・・そう誓ったものでね・・・」
ため息をつきながらそう言った。
この学校に来て、エドは沢山の友人が出来た。、
ハロウィンの時はそれで助かった。
だけど、今回は敵も必死なのだ。
未来の士官候補生達に、化け物の相手をさせるわけにはいかない。
ロイの取り越し苦労とばかり言い切れなかった。
バーンスタインのように姿を消したと・……
「今度は、彼が幽霊にさらわれたと、そう思っている?」
「……」
ケリーを巻き添えにする気はなかった。
けれど、
「俺も友人を捜しているんだ」
「友人?」
「ミュラーの姿が見えない。昨日、上級生といっしょにいる所を見たという奴がいたので、手がかりを探しにそこへ行こうと思っている」
ケリーの決意は固そうだった。
「ミュラー・ブレリオにも身よりはなかったな」
「チェック済み?」
「一応、な」
錬金術に対する知識もあり、十分行方不明になる条件を満たしているのだ。
「俺は1人でも友人を捜しに行くけど?」
止めても無駄のようだった。
学生1人でなんて、とんでもないっ!
それくらいならば……
「わかった、いっしょに行こう!」
目的が同じなのだとしたら協力できる。
それに、吸血鬼相手の時は、エドはミュラーに助けられたのだ。
借りは返さなくてはならない。
それに・・・
もう一度会って話しをしたいと思っていたのだ。
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