第4章 熾天使セラフィー





今は使われていない古い建物の中。
崩れた漆喰と割れたステンドガラスの欠片が散乱している。
以前には教会だったかのような様相の内部だった。
大きな椅子の肘掛けに、浅く腰掛けた少年にミュラーがそっと口づける。

「ちゃんと食べているのか?」
「食べているよ」
「嘘ばっかり…」

薄い金色の髪と水色の瞳の下級生は、ミュラーと同じ村の出身だった。親族ではないが、ミュラーも同じ色彩の様相をしていた。
少年の痩せた細い躯を抱きしめる。
3カ月前、生死の間を彷徨ってから、セシの食欲は進んでいない。
他の専門学校や大学と違って、仮にも士官学校だ。
学科の頭脳だけじゃなく、体力の必要なものも多いのだ。
倒れて授業について行けなくできなくなったら、退学という事も考えられる。そうしたら一緒にいられない。

「ごめん……」
「謝るくらいなら、ちゃんと食べろ、俺がいない時もな」
「出かけるの?昼食は」
「うん、先生のご用で下の街までね。だから…」
「ちゃんとたべるよ……」

ミュラーとずっと一緒にいたいから。
もう一度、キスをする。

食堂でみんなと同じランチを食べる。
揚芋とソーセージと野菜のサラダ、それにコーンスープとライ麦パンだった。
飲み込むようにもくもくと口に入れる。

カチャーン!

半分食べた所でフォークが指から離れた。

『ごめん…ミュラー、これ以上食べられないや……』

食べ残しの食器のトレーを戻し、食堂を出た。
食事をしてからの方が、よほど顔色が悪かった。

「うっ…げーっ…」

人気のない裏庭で長々と蹲り、今食べたものすべてを吐きもどす。
今まであまり食べなかったのは、胃が受け付けなかったからだ。どんなに頑張り食べようとしても無駄なのだ。



セシはこんな学校に居るにしては、線が細くて綺麗な少年だった。いつもは誰かの影にいて、知らない生徒と話しも出来ないほどだった。
側にいたのは同郷のミュラーだけで。
その彼は、校長の用事で今は側にはいなかった。
以前からセシにちょっかいを出していた上級生がこのチャンスを逃すはずがなかった。


「やっ…何……」
誰もいない教室の隅の床に、手足を押さえつけ、上着をシャツをはぎ取り、下着ごとズボンを抜き取った。
「嫌だっ…止めてっ!」
泣き叫ぶ少年の両脚を、無理矢理左右から開かせ、リーダー格のリトに差し出したのだ。
リトの祖父は西方の大将閣下だ。
そんな後ろ盾のおかげで、彼のグループは学内では幅をきかせていた。取り巻きの数も多い。
「やぁっ……お願いだからっ……」
 恐怖にセシの貌が歪む。
「そういう顔もそそるな」
リトは用意していた潤滑剤のチューブから、たっぷりとクリームを塗りつけた太い指を、セシの脚のつけ根に塗りこんでいく。
「いや…だ……止めて。そんな事しないでっ……」
「そんなコトって何だ」
そしてゆっくり差し入れていく。
「痛っ…」
きつく狭いそこは、指1本でも入りそうになかった。
いらつきながらも、本数を増やして入り口を広げていった。
「痛い…やだっ……あぁっ…や………」
言葉にならず息だけが荒くなる。
闇雲に突き入れてもはいらない事は、リトは経験上知っていた。
「…っ…は……」
自分が痛い思いをするだけだ。
4本目の指を抜き、指より熱い固まりを突きつける。
「ひっ…ひいっっっっ…………」
 悲鳴とともにリトのものが内部に突き立てられた。
 苦痛に、白い貌が歪む。
「あっ………ああ………」
「どうした?いいのか」
 真っ青な顔をして震える獲物は、酷くそそられた。
引き裂かんばかりに広げた足の間には、リトの太いものが
半分ほどまで埋め込まれている。
「あ……あぁ…」
 
「見てみろよ、お前のココ、凄いぜ、ちゃんと俺のを銜えているよ」
「!」
 一端引き抜いて、もう一度突き入れる。
 今度は、先ほどより深く届く。
「あっ……」
 内部がリトのものとこすれて微妙な感覚を呼び起こす。
「いつもは、ミュラーとかいうやつのを銜えているんだろ」
「……あぅ…ミュラーは…こんな事、しないっ」
彼は幼なじみで、優しい恋人だった。
キスしたり抱きしめてくれたけど、無理矢理からだを繋げたりはしなかった。

 抜き差しの速度があがっていく。
「・……痛っ…やだ、痛いっ…」
「そのうち良くなるさ」
 痛みが限界を超すと、人はそれを快感だと変換していくのだ。そうして、苦痛から逃れようとする。
「はっ…」
何度か腰を使い、欲望の固まりを内部にぶちまける。
「―――――!」


ドクドクと体内に注ぎ込まれたそれは、ゆっくりと染みこんでセシの一部になっていくようだった。
そして自分の細胞の1つ1つが、酷く替わってしまった事に気がついた。それが、もう元にはもどらない事も。
瞳から、涙が零れていた。
「良かったか?」
ぐったりとした躯から離れると、先ほどまで躯を押さえていたビルがセシの足の間に入る。
そのまま力まかせに押し入った。
「!」
ピクンと少年の躯がはねる。
リトのものを納めていた場所は、さしたる抵抗もなく、ビルをも飲み込んでゆく。
狭くて暖かな肉に包まれ、夢中になって抜き差しを繰り返す。
一度内部に放つと、次の男に替わる。
何度押し入られ、汚されたのか……


躯中がどこもが痛んだ。
最後の上級生が内部に精を放った後、あわただしく離れていったその時のままだ。
動く事も出来ず、遠い天井を見つめたたままで。
床に、四肢を投げ出していた。
誰かがこの教室に入ってきたら、と思いつつも動けなかった。
 もう、どうでもよかった…・







「ここは…・」
 掠れた声だった。
「君の生まれた場所だ。セシル」
 バーンスタイン教官の助手だったディルが返事をした。
 人気のない教室から、彼がここへ運んだのだろう。

 セシは、実験室にある手術台の上に寝かされていた。
犯された時のままの裸身で。
だが、両の太股の内側についていたはずの白濁はすでに、その皮膚から体内へと吸収されていた。
また、暴れてついたはずの擦り傷や、切り裂かれたはずの皮膚も元の白く染み一つない状態に戻っている。

「飢えは…満たされたろう?」
 精神的にはボロボロのはずだったが、確かに、セシルの身体は満足していた。
 そしてたぶん、顔色もずっといいはずだ。

「あんたが、上級生達をけしかけたんだな」
 ミュラーのいないこの時を、ディルは狙っていたのだ。
 優等生の彼は校長の覚えもめでたく、西方の将軍のご威光も通じない。
「このままでは、君は飢え死にしてしまう」
 せっかく生き返ったのに、もったいないだろうと言うのだ。
 普通の人間と同じ食事は、すでに受け付けなかった。
 生まれ変わったあの日から、彼の肉体を生かすのは、精液と血だけ。
 セシルの腕には輸血のためのチューブが巻き付いていた。
「この血は…」
「少々献血してもらっている」
「噂の吸血鬼は、あんたなのか……」
 お前を失うわけにはいかない。
 バーンスタイン教官はお前のエサになって死んだが、俺はそうはいかない。
「さあ、足を開いて」
 言われるまま脚を開いて、ディルの進入を受け入れる。
 鳥肌が立つほど、大嫌いな相手のものを銜えて、注ぎ込まれるそれは、セシルを生かす食事でしかない。




狂気の実験が、バーンスタインの助手の手で進められていた。師の秘密の実験の成果を、残された記録から読み取り、師のさらに先を目指そうというのだ。
密かに実験を重ね、すでに何体かの練成を試みていた。
だが、今ひとつ満足がいかなかったのだ。
バーンスタインほど美しい練成にならないのだ。
実験の成果さえ出せば、国家錬金術師も夢ではないのだが、今のありさまでは難しい。
目的のためにも、セシルの存在は必要だったのだ。






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